昭和63年度概要 1).モルモット又はラット脳スライス標本の海馬CAI錐体細胞は酸素あるいは糖欠乏に対して極めて抗抵性が高く、膜電位も一旦過分極した後、緩徐な脱分極に移行したのみであった。過分極電位は膜電位非依存性Kチャネルの活性化によって、脱分極電位は細胞外K蓄積により生じることが判明した。2).同上標本も酸素・糖欠乏状態にすると、海馬錐体細胞は一旦過分極した後、急峻な脱分極に移行し、6分後には膜電位が消失して細胞死を来たした。この膜電位変化は脳虚血のin vivo実験によるCD電位変化と経時的によく一致することから、本標本は脳虚血のモデル標本となり得ることが判明した。亦、非可逆的障害をもたらす急峻な脱分極電位は多分Ca依存性非選択的陽イオンチャネルの活性化によって生じ、細胞内Ca蓄積はCa汲み出し機構の障害と細胞外からのCa流入に基因することが明らかになった。 平成元年度概要 1).酸素・糖欠乏による海馬錐体細胞の急峻な脱分極電位発生は低温環境(26〜27℃)、ATP細胞内注入、procaineによる標本前処置により完全に防止でき、有機Ca拮抵薬、細胞内Ca遊離阻害薬、NMDA受容体遮断薬、pentobarbitalやhydrocortisoneなどの脳保護薬、プロスタグランディン産生阻害薬の前処置により部分的に阻止できた。2).正常酸素分圧下で高K(60〜75mM)溶液で標本を灌流すると、海馬錐体細胞はOmV附近まで脱分極し、細胞死を来たした。この細胞死は無機及び有機Ca拮抵薬で阻止でき、阻止効果は尖端樹状突起上に局在するL型Caチャネルのブロックに基因することが判明した。 以上、脳虚血による中枢神経細胞死には細胞内Ca蓄積が大きな要因となることが明らかにされた。
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