63年度は、哺乳動物イヌの骨格筋細胞、心筋細胞、神経細胞の3種の興奮性細胞について、各単一Naチャネル電流を主に人工脂質膜=黒膜法を用いて記録し、以下の検討を行なった。1.NaチャネルBlockerのフグ毒TTX、STX、その誘導体群の3種の単一Naチャネル全てに対する作用形式、特にKd、Kon、Koff定数を体系立てて決定した。心筋細胞は他の2つの細胞種に比べて全く異なる動態を示した。2.Conotoxin III(3種の興奮性細胞のうち、骨格筋細胞のNaチャネルのみを抑制する海産の生物毒)はフグ毒と骨格筋Naチャネルにおいて互いに拮抗阻害することを確認し、その詳細な動態を明らかにした。3.骨格筋の運動神経の脱神経支配処理前後の単一Naチャネル電流のTTXに対する動態解析を行なった。骨格筋Naチャネルは脱神経支配という環境変化により、骨格筋型の表現型(TTXに対して感受性が高い)から、いわゆる心筋型(TTXに対して感受性が低い)の表現型へ完全移行することを、黒膜法のみならずパッチクランプ法の巨視的電流の記録によっても確認した。更に今回、心筋の自律神経とくに交感神経の切除実験を行ない、心筋のNaチャネルが更に変化するか否かを調べた。心筋Naチャネルの性質に変化は認められなかった。4.NaチャネルのActivatorの単一Naチャネルに対する作用形式についても解析した。ActivatorのVeratridineはBatrachotoxinに比べて極めて低い開口確率にて活性化するなど、Toxinの種類により著しく異なる挙動を示した。今後更に、生物毒とNaチャネルの相互作用を観察しながら、異種興奮性細胞間の興奮性の差異の分子論的メカニズムの詳細に迫りたい。
|