本年度は、イヌの骨格筋細胞、心筋細胞、神経細胞の3種の興奮性細胞について、これまでの人工脂質膜法による各単一Naチャンネル電流解析結果を、パッチクランプを用いて再検討することに力点を置いた。パッチクランプの巨視電流解析のみならず、単一チャンネル電流解析でも、従来のデ-タを再確認することが出来た。特に、NaチャンネルBlockerのフグ毒TTX、STX、その誘導体群の3種のNaチャンネル全てに対する作用機序を調べた結果、Kd、Kon、Koff等の速度反応論的定数は、人工脂質膜法の場合と同様の値を示した。更に、人工脂質膜法を用いて、各種興奮性細胞のNaチャンネルのVeratridineによる修飾機構を詳細に検討した。Veratridineにより活性化されたNaチャンネル電流のSlope conductanceは約10pSで、不活性化過程の消失は不完全であった。開確率は調べた膜電位の範囲では強い電位依存性を示した。更に、チャンネル活性は高濃度のTTXでも完全に阻害されにくい特徴を示した。一方、他のNaチャンネル修飾薬物の動物性アルカロイドBatrachotoxinにより活性化されたNaチャンネル電流の場合、約20pSのslope conductance、ほぼ完全な不活性化の消失、弱い膜電位依存性の開確率などの特徴を示した。更にチャンネル活性は充分な阻害濃度で殆んど抑制された。以上の単一Naチャンネル電位流のVeratridineによる活性化の程度はBatrachotoxinのそれに比べてかなり弱いという性質は、各種興奮性細胞に共通していた。 これまでのNaチャンネル修飾薬を通じて検討した、異種興奮性細胞間の興奮性に関する異同の分子論的メカニズムは、比較的詳細に記述できたように思う。
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