今年度の科学研究費による研究はまず最初に以下のようにして行なわれた。1.視床下部神経細胞の単離手法の確立。2.単離細胞をシャーレに定着させる手法の試み。3.細胞を免疫組織化学的に同定する手法の試み。4.単離細胞の電気生理学的性質を検策する手法の確立。上記の実験により同定した神経分泌細胞の電気生理学的性質の検策手法に対する糸口ができた。しかし単離された視床下部神経細胞の電気生理学的性質および化学受容器の性質さえも解明されていない今日、まずこれらのことを知ることが先決であると考え、今年度の後半は主に視床下部第3脳室側壁部および視索上核領域から単離した神経細胞をパッチ・クランプおよび瞬時外液交換法を用いて、ナトリウム電流に対する浸透圧の影響を調べた。〔結果〕単離した神経細胞から膜電位固定下でナトリウム電流を誘起し外液浸透圧を変化させると緩除な電流の変化、高張液でナトリウム電流の減少・低張液で増加が観察された。この変化はマニトールばかりでなくショ糖を含む高張液での浸透圧刺激で同様の結果が得られた。また電流・電圧曲線より浸透圧変化により逆転電位が移動することがわかった。これらの現象は第3脳室側壁部および視索上核領域神経細胞の両方ともに観察された。〔考察〕視床下部第3脳室側壁部および視索上核領域神経細胞のナトリウム電流は浸透圧刺激により比較的緩除な機構を介して、多分膜にあるチャンネルの構造変化を伴って変化していることが示唆された。〔展望〕以上のように視床下部神経細胞のナトリウム電流に対する浸透圧の影響は概略的に知ることができたが他の電流に対する影響を検策すること、またこのような浸透圧感受性が視床下部神経細胞に特異的な性質なのか他の中枢神経細胞を用いて比較する必要があり今後の課題である。加えて神経分泌細胞の化学感受性を理解するには、単離細胞のみならずスライス標本でも実験を行う必要があると考える。
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