今年度の科学研究費による研究は以下のようにして行なわれた。1.前年度に確立したパッチクランプおよび瞬時液交換法をもちいて浸透圧感受性が高いといわれている第3脳室前腹側部および視索上核領域から単離した神経細胞の浸透圧感受性について調べること、2.スライス標本での浸透圧感受性と比較すること、3.オピオイドに対する神経分泌ニュ-ロンの作用を検索することである。[結果および考察]1.膜電位固定下で得られた単離した神経細胞の膜電位依存性ナトリウム電流は外液浸透圧に対して緩徐な応答を示すことがわかった。浸透圧を上昇するとナトリウム電流は減少し、浸透圧を低下すると増加した。電流・電圧曲線で求められる逆転電位が浸透圧刺激により移行することからチャネル構造の変化をともなっていることが示唆された。2.スライス標本を用いてマウスの視索上核およびラット室傍核ニュ-ロンの浸透圧感受性を調べた。マウス視索上核ニュ-ロンでは浸透圧上昇による興奮と抑制が観察された。ラット室傍核ニュ-ロンの多くが浸透圧上昇により抑制された。生理学的意義は不明であるが、浸透圧上昇によるイオン透過性の減少の可能性が1.の実験より類推された。3.抗利尿ホルモン産生細胞のオピオイドに対する感受性をスライス標本を用いて検索した。内因性κアゴニストleumorphinおよびdynorphinの投与により過分極および放電活動の減少が生じた。この抑制反応はシナプス入力およびカルシウム活動電位の減少によるものであることが示唆された。μおよびδアゴニストは効果を示さなかった。一方、オキシトシン産生細胞だと考えられる神経細胞の放電活動はκ、μ、δアゴニストのいずれによっても抑制された。以上の結果は、神経分泌細胞の神経活動はオピオイドによって抑制されるが、特に抗利尿ホルモン産生細胞に対してはκアゴニストが選択的に作用することを示唆している。
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