本研究では、サルの性行動を制御する中枢神経機構とそれに関与する生理活性物質の解明を目的として、(1)視床下部、中脳被蓋野や中心灰白質の電気的化学的刺激の性行動に及ぼす効果、(2)性行動遂行中の視床下部ニュ-ロンの活動様式、(3)視床下部における性行動および摂食行動の相互調節系を検討した。また(4)行動中あるいは視床下部刺激後の脳脊随液中の神経ペプチドの動態の解析を試みた。 1.電気刺激実験では、雄ザルの内側視索前野や視床下部背内側核から連続的に腹側被蓋野まで至る経路が性行動発現系であるが、雌ザルでは内側視索前野→視床下部腹内側核→中脳中心灰白質が性行動の促進経路であった。雄ザルの中脳の電気刺激有効部位にグルタミン酸による化学刺激を行ったが、化学刺激は無効であった。 2.ニュ-ロン活動の解析では、雄の内側視索前野ニュ-ロンは性的覚醒レベルに応じた活動様式を示し、視床下部背内側核のニュ-ロンは実際の行為中に一致して活動が高進する。雌ザルでは内側視索前野は雄の活動様式と類似点があり、また雄の背内側核とよく似た活動が雌の腹内側核で観察された。 3.サル視床下部腹内側核は雌の性行動促進系であることが明らかになったが、この部位は摂食抑制系でもある。電気刺激で雌ザルの性行動を誘発するが、レバ-押し摂食課題の遂行は抑制した。また、性行動の誘発は異性のパ-トナ-が手の届く範囲にいたときだけおこり、同性のサルやヒト等に対しては誘発されなかった。これらのことは視床下部刺激で誘発される行動が常に外界からの情報に依存していることを示している。 4.性行動や視床下部刺激後の脳脊随液中の生理活性物質の動態の解析を試みているが、さらに継続する必要がある。
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