腹側呼吸群の吻側にある領域Botzinger complexのニューロン群の中で、漸減型の発火を示す呼息性ニューロン(E-DECニューロンと名づける)が存在する。E-DECニューロンは、呼息相における肺の人工的伸展に応じて発火頻度を増大させたため肺伸展受容器から興奮性入力を受けていることが判明した。一方吸息相には強く肺を伸展しても発火することはなかった。これはE-DECニューロンが吸息相には中枢性の抑制を受けていることを示していた。次にその軸索の投射先を逆行性微少電流刺激法によって調べたところ、対側の脳幹で広範囲に軸索側枝を分布させ特に腹側呼吸ニューロン群の領域に投射していることがわかった。そこでスパイクトリガー^^‥による加算平均法を用いて対側の腹側呼吸群のニューロンとの間でのシナプス結合の有無を調べた。吸息性ニューロンの細胞内膜電位にはE-DECニューロンのスパイク一発一発に対応した単位抑制性シナプス後電位が観察された。このことよりE-DECニューロンは腹側呼吸群の吸息性ニューロンを抑制していることが示された。さらにE-DECニューロンは上気道を支配する運動ニューロンに対しても抑制性結合をしていることが判明した。肺からのフィードバックは、このE-DECニューロンを介して上気道の筋群に対して影響を与えていることが明かとなった。 この新たに同定された抑制性ニューロンはその発火のタイミングから見て、吸息から呼息への切り代わりを引き起こすあるいは促進するといった呼吸リズム生成にとって重要な役割を果たしていると思われる。しかも肺の伸展受容器からの興奮性入力の存在は、このニューロン群がHering-Breuer反射を仲介するニューロンの一つであり、この呼息性ニューロンを介して肺からの入力が中枢性に生成された呼吸リズムを修飾していることが示された。
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