本研究は、従来哺乳動物で唯一の概日振動体(生物時計)の存在部位とされてきた視床下部視交叉上核(SCN)以外にも概日周期を持つリズムを生体の多くの機能に発現させるSCN外概日振動体の存在の発見に基づき、その局在と振動機構の解明を目的として行われた。実験には盲目ラット及びSCNの破壊後、概日リズムの消失したラットを用いた。 SCN概日振動体の局在の検索:この振動体は、強力なカテコ-ルアミン(CA)放出薬であるメトアンフェタミン(MA)投与でリズムを発現するため、CA作動性神経系に焦点を当て6ハイドロキシトパミン微量注入による選択的破壊の影響を調べた。しかし、側脳室、側座核及び視床下部外側野への注入後も、MAによるリズム発現がみられたため、振動体はこれ以外の部位に存在すると考えられる。 SCN外概日振動体の機能的検索:MAと類似の構造あるいは薬理機能をもつ14種の薬物をSCN破壊ラットに慢性投与し自発行動へのリズム発現の有無を調べた。その結果、メチルフェニデ-トとマジンド-ルで行動量の増加に伴いリズムが発現した。次に、フリ-ランしている盲目ラットの行動を、アニメックスと回転カゴの2種の行動計で記録したところ、アニメックスで記録した行動リズムはMA投与で相対的協調を示したが、SCN内概日振動は全く影響されず、一方、回転カゴによる輪回し行動リズムはMA投与で相対的協調を起こしにくいが、SCN内振動体の周期が延長した。以上の結果、SCN外概日振動の発現には行動亢進が極めて重要であること、また、輪回し行動の負荷でSCN内外の振動体間のカップリングが増強することが分かった。 食餌性振動との相関:MAにより発現するSCN外概日振動は周期的制限給餌に同調した。しかし、同じくSCNに依存せず、概日周期を持つ食餌性振動とはSCN内振動体との関係、食餌周期への位相関係、2相性のメラトニンリズム等の点で異なる。
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