体温調節機構において中心的役割をはたす視索前野ニュ-ロンは、体温調節の中枢であるばかりでなく、それ自体が温度を受容し、脳の温度計の役割もはたしている事を明らかにして来た。しかし、その温度受容機構は全く不明であった。最近に至り、視索前野のニュ-ロンを良好な生理的膜特性を持ったまま単離する事に成功したので、この標本を用いて温度受容機構を調べた。 1.ラットの視索前野を摘出しアクチナ-ゼ及び機械的処理により神経細胞を単離した、その形態は、樹状突起を2方向にのばしたspindle型の細胞と3本以上のばした型の細胞が観察され、いずれの型の細胞も直径10ミクロン以下であった。 2.吸引電極で、単離した細胞の樹状突起から吸い込み、吸引接着し、ギガシ-ルを行い、外液瞬間交換法で異なる温度の外液を吸い上げ温度変化刺激をおこなったところ、約80%のニュ-ロンは32〜40℃の間で内向き電流が温度上昇に伴いほぼ直線的に増大した(Q_<10>=2)。しかし、残りのニュ-ロンは34〜36℃以上にすると内向電流が急激に増大した。このタイプのニュ-ロンが温ニュ-ロンと考えられる。 3.細胞内液にEGTAとFを入れ、Ca^<2+>の移動を止め、外液のNa^+の半分量をコリンで置換し、膜電位固定下で温度変化刺激すると、膜電流のQ_<10>=2のコンポ-ネントの温度反応性が半減したので、この電流はNa^+の移動によると考えられる。 4.TTXを細胞外より与えても、Q_<10>=2のコンポ-ネントには影響は無かったが、約35℃以上で急激に増大する内向き電流は可逆的に抑制された。つまり、ニュ-ロンすべてにあるNa^<10>流入の温度依存性にはTTX-sensitive Na^+チャンネルは関与していないが温度ニュ-ロンの温感受性の一部は、TTX-sensitive Na^+チャンネルに依っている事が明らかとなった。
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