モルモット摘出灌流左室自由壁標本において、定流灌流を中止し虚血状態にすると、静止膜電位の減少と活動電位持続時間(APD)の短縮が認められたが、長時間にわたる細胞内電位記録が不可能であったので、モルモット摘出表面灌流標本を用い、低酸素、無グルコース状態、あるいは無グルコース下に酸化的リン酸化を2.4-dinitrophenol(DNP)で抑制し、虚血時と同様のAPD短縮をひきおこす実験系を確立した。低酸素、無グルコースの液で60分間表面灌流すると、わずかな静止膜電位の減少および静止張力の増加(拘縮)と共に-60wVのレベルでのAPD(APD_<-60>)は69±4%短縮した。また、0.01mMのDNPを含む無グルコース液で45分灌流した際でも、拘縮と共に同程度のAPD_<-60>の短縮(81±6%)を来たした。この時の心筋内ATP含有量の変化を検討するため、同じ液で灌流したランゲンドルフ心中のATP量をluciferin-luciferase法により測定した。対照心におけるATP含量はKg湿重量当たり3.00±0.20mMであったが、低酸素、無グルコース液で60分間灌流すると0.47±0.17mMに減少し、DNP無グルコース液で45分灌流した場合でも1.11±0.24mMに減少した。Tolbutamide(2mM)、5-hydroxydecaroate(1mM)は、モルモット単一心室筋細胞のopen cell attached patchでATPを除去した際に開口してくるATP感受性K^+チャネルの開口確率を減少させ、心筋細胞においてATP感受性K^+チャネルブロッカーとして働く事が明らかになった。しかしながら、これらの薬物存在下においても、低酸素、無グルコース液、あるいはDNP、無グルコース液の表面灌流により同程度のAPD短縮がひきおこされ、改善は認められなかった。これらの実験結果から、ATP感受性K^+チャネルは虚血時のAPD短縮および細胞外K^+蓄積に重要な役割を果たしていない可能性が示唆され、今までの概念に反する非常に興味ある知見が得られた。
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