心筋梗塞急性期の不整脈は心室細動に移行する事が多く、虚血性心疾患に伴う突然死の原因となっている。その致死的不整脈発現の最大要因は、細胞内からのK^+流出とそれに続く静止膜電位の減少であるが、本研究ではこのK^+流出が細胞内代謝変化、特に細胞内ATP濃度の減少によって増強する外向きK^+電流によって説明可能か否かを検討した。経口糖尿病治療薬であるtolbutamide(T.2mM)、glibenclamide(G.20μM)はopen cell-attached patchにおいて細胞膜内側のATPを除去した時に開口するATP感受性K^+キャネルに対し抑制作用を示した。モルモット乳頭筋においても、このチャネルを開口させ活動電位持続時間(APD)を短縮させるpinacidilの作用に対しほぼ完全な拮抗作用を示した。しかしながら、低酸素、無グルコ-ス液によるAPD短縮に対しては、Tはむしろ増強し、Gは有意の軽減作用を示したものの完全には抑制しきれなかった。酸化的リン酸化阻害剤と無グルコ-ス液でのAPD短縮に対しても、Tは改善作用を示さず、Gの軽減作用も完全ではなかった。また、イヌ摘出右室自由壁冠動脈灌流標本において、灌流を遮断して虚血状態とした際に観察されるAPD短縮に対して、Gは改善作用を示したが、完全には予防できなかった。これらの実験結果から、虚血時あるいは低酸素時のAPD短縮には、ATP感受性K^+チャネルの活性化ばかりではなく、他の電流素の変化も関与するものと考えられる。次に麻酔開胸犬において冠状動脈を閉塞した際に細胞外に蓄積するK^+および乳酸量についてmicrodialysis法を用い検討した。G(1mg/kg)で前処理したイヌにおいて乳酸流出量は減少する傾向を示したものの、細胞外へのK^+流出量は対照群とほぼ同程度であり、不整脈死する例も多かった。この事より、急性心筋虚血時の細胞外へのK^+流出は、ATP感受性K^+チャネルを介するK^+電流増加のみでは説明不可能であると結論された。
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