本研究者たちは、最近、脳ペプチドーボンベシンが中枢性に交感神経ー副腎髄質系を賦活して胃酸分泌を抑制すること、さらに、交感神経ー副腎髄質系機能は胃酸分泌を指標とする限り、そのいずれかが脱落しても相互に充分代償し得ることを示唆した。 そこで本研究では、この知見をさらに敷衍するため、ウレタン麻酔ラットのカテコールアミン分泌を指標にして交感神経ー副腎髄質系の中枢ペプチド性統御機構を検索した。 得られた成績を纏めると、1)ウレタン麻酔ラットの血液ノルアドレナリンおよびアドレナリン値は、それぞれ2.66±0.19および0.85±0.15pmole/ml(n=22)であった。2)ボンベシンの脳室内投与は用量(0.3ー10.0nmole)に依存した血液カテコールアミン値の増加を来した。この増加の程度は、とくにアドレナリンのそれが著しく、ボンベシン3nmole投与30分後には最大値(投与前値の約5倍)を示した。3)6ーOHードパミン50mg/kgを静脈内に投与した動物の末梢組織ノルアドレナリン値は、例えば胃の場合対照の約15%にまで著減した。一方、副腎および脳のカテコールアミン値は、いずれもそれぞれの対照値と有意に異ならなかった。これらの化学的交感神経切除を施した動物では、ボンベシンの効果は著しく増強された。4)一方、副腎摘除を施しても、ボンベシンのノルアドレナリン値増加反応は、予期に反して増強されなかった。上述(3)については、副腎アドレナリン分泌に対する負の抑制機構の存在を交感神経系との関連で明らかにしたものであり、両系の相互代償作用を解明する端緒となり得よう。なお、本研究費により備品として購入したセルボックスCBー100により、カテコールアミンの検出感度が10倍近く上昇した。従って、試料採取量が極めて少なくすみ、カテコールアミン分泌量の経時変化の検討が同一動物で可能となった。
|