前年度に引き続いて、ウレタン麻酔ラットのカテコ-ルアミン分泌を指標にして交感神経-副腎髄質系の中枢性統御機構を神経薬理学的に検索した。得られた成績はおよそ次のようである。(1)ボンベシン投与時にみられたような血漿アドレナリンおよびノルアドレナリン値の中枢性増加反応が脳の特定部位の電気刺激によっても再現できるか否かを確かめるため、ボンベシンの作用部位と目される視索前野の電気刺激を試みた。この部位を電気刺激(0.5mA、2msec、10Hz、10分間)すると、アドレナリンおよびノルアドレナリン値は急速に且つ著しく増加した。(2)ボンベシン3nmoleを脳室内投与したときの血漿アドレナリン値増加反応は交感神経のα受容体遮断薬phentolamine(5mg/Kg皮下)前処置によって著しく早められた。すなわち、ボンベシン投与10分後の血漿アドレナリン値は無処置動物では未だ有意変化を来さなかったが、phentolamine前処置群では既に著増した。一方、β-受容体遮断薬propranolol前処置(5mg/Kg、皮下)では、ボンベシンの血漿カテコ-ラミン増加作用は全く影響されなかった。(3)大内臓神経を切除した動物にnicotineを持続注入(50ug/Kg/min)すると血漿アドレナリンおよびノルアドレナリン値は急速に且つ著しく増加した。更に、この大内臓神経切除動物でのnicotineのアドレナリンおよびノルアドレナリン値増加反応は6-ハイドロオキシドパミンを用いての化学的交感神経切除を施しても変化しなかった。 これらの成績をまとめると、交感神経終末部に発する脱抑制の情報は交感神経に含まれる求心性線維を上行し、脳内特定部位において統合された後、副腎髄質機能を賦活するのであろう。また、この脳内特定部位はおそらく視索前野を含む視床下部の前部領域と予測される。
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