最近、私たちは脳ペプチドボンベシンが中枢性に交感腎髄質系を賦活して胃酸分泌を抑制すること、さらに交感神経および副腎髄質両系の機能は、胃酸分泌を指標とする限り、そのいずれかが脱落しても相互に充分代償し得ることを明らかにした。そこで本研究では、この知見をさらに敷衍するため、カテコ-ルアミン分泌を指標にして交同神経-副腎髄質系の中枢性統御機構を神経薬理学的に検索した。ウレタン摩酔ラットを用いて得られた成績はおよそ次のようである。1)脳室内にボンベシンを0.3〜10nmole投与すると、血漿アドレナリンおよびノルアドレナリン値はいずれもその用量に応じて増加した。2)視索前脳を電気刺激すると、アドレナリンおよびノルアドレナリン値は急速に且つ著しく増加した。3)6-ハイドロオキシドパミン(6-OHDA)を用いて化学的交感神経切除を施した動物の脳室内にボンベシンを投与すると、このペプチドのアドレナリン値増加作用は著しく増強された。4)一方、ボンベシン脳室内投与時の血漿アドレナリン増加反応は、副腎の外科的摘除によって有意に変化しなかった。5)ボンベシン3nmoleを脳室内投与した時の血漿アドレナリン値増加反応は交感神経のα-受容体遮断薬phentolamine前処置(皮下)によって著しく早められた。一方、β-受容体遮断薬propranolo前処置(皮下)では、ボンベシンの血漿カテコ-ラミン増加作用は全く影響されなかった。6)大内臓神経切除動物でのnicotineのアドレナリンおよびノルアドレナリン値増加反応は予め6-OHDA処置を併用しても変化しなかった。これらの成績から、交感神経系は、副腎髄質ホルモン分泌に抑制的に関与する。言い換えると、遊離調節面での負のフィ-ドバック機構を形成する。交感神経終末部に発する脱抑制の情報は交感神経に含まれる求心性線維を上行し、脳内特定部位(視索前野など)において統合された後、副腎髄質機能を賦活するのであろう。
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