α型ヒト心房性Na利尿ペプチド(α-hANP)は、腎に対して強力な利尿作用と腎血管拡張作用を示す。従来より、ANPの利尿作用の発現にはcGMPが細胞内セカンドメッセンジャーとして働く可能性が指摘されて来た。事実、ANPを実験動物あるいはヒトに投与すると、cGMPの血漿濃度が上昇し尿中への排泄が増加することは、数多くの研究者達によって指摘されて来たところである。しかし、我々は、ANPを投与することで確かに血漿cGMP濃度が上昇するが、腎静脈においては常に動脈に比して低価を示すことをみとめた。すなわち合成ANPを腎動脈内に投与すると著明な利尿効果と腎血流量の増加がみられる。またANPの投与によりcGMPの血漿濃度、尿量排泄は著明に増加した。しかし腎静脈血漿中cGMP濃度は動脈に比して常に低下を示すことから、少なくとも全身循環血中に増加したcGMPは腎由来でないと考えられた。そこで、α-hANPを麻酔したイヌに投与し、全身各位の血漿cGMPの動・静脈較差を求め、腎以外のいずれの部位でANPに反応して、cGMPの産生あるいは遊離が促進し、循環血漿濃度が上昇したのかを明らかにすることを試みた。すなわち、カセターを頚静脈、腸間膜静脈、腎静脈、および大腿静脈に留置した上でα-hANPを投与し、採血後cGMPを定量したところ、腸間膜静脈血漿中濃度のみが、動脈血より高値を示し、ANPの投与によりその動静脈較差も著増した。これらのことから我々は、全身循環血中に増加したcGMPは腸管由来であると結論した。またこの成績は、心房から遊離したANPは腎に対し作用して尿量、ナトリウム排泄を増加させるのみならず、腸管における水電解質輸送の調節に関わる可能性を示唆している。
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