ラットの脳を除く各組織には、細胞質とミトコンドリア両画分にほぼ等量のフマラ-ゼが存在する。これらの二種のイソ酵素は構造、性質ともに極めて酷似している。ラットではフマラ-ゼの遺伝子は一つしかないと推測されている。 単独の遺伝子から二種の酵素が出現するには、少なくとも次の三つの可能性がある。(i)遺伝子上に二カ所の転写開始点があり、その結果二種のmRNAができる。(ii)転写開始点は一つであるがスプライシングが異なるため二種のmRNAができる。(iii)ただ一種のmRNAしかないが二カ所の翻訳開始点がある。 我々はラットのフマラ-ゼのイソ酵素の場合、上記の三つの可能性のうちどの機構によるのかを明らかにしようとし、実験を進めてきた。前年度までの、主としてmRNAやそのcDNAを用いた研究結果から、フマラ-ゼの場合は上記の(iii)の機構によって二つのイソ酵素が生成するらしいことが知られた。 遺伝子の解析、特に5'側上流の塩基配列の解明は本研究の目的遂行には不可決と思われるので、本年度はラット遺伝子の解析に力点を置いた。その結果、次の知見を得た。 1.ラット遺伝子ライブラリ-を作成し、cDNAをプロ-ブとして二種類のクロ-ンを得た。 2.一つはcDNAの5'側と、また他の一つは3'側とhybridizeする。それらのクロ-ンを継ぎ合わせると約23Kbにも及ぶが、それでも全てのエクソンを含んではいない。 3.一つのクロ-ンには5'側上流が存在するので、現在その塩基配列の解析を進めている。転写開始点の特定や、特徴ある塩基シグナルの有無がいずれ明らかになるものと期待される。
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