ラットの脳を除く各組織には、細胞質とミトコンドリア両画分にほぼ等量のフマラ-ゼが存在する。これらの二種のイソ酵素は構造、性質ともに極めて酷似している。ラットではフマラ-ゼの遺伝子は一つしかないと推測されている。 そこで、私共は同一の遺伝子からどのような機構で二つのイソ酵素が生成されるのかについて研究を行った。その結果次の知見を得た。 1.ラット肝cDNAライブラリ-から数種類のクロ-ンを拾ったが、その全てがミトコンドリア型であり、presequenceを持っていた。 2.presequenceの最後にメチオニンのコ-ドであるAUGが存在した。従ってこのAUGから読み始めるとすれば細胞質型酵素の翻訳が可能となる。 3.cDNAの5′側、中間及び3′側のDNA断片を用いて、それらとhybridizeするmRNAを選択した。これらのmRNAを用いてin vitroでの翻訳を行なわせた所、いずれの場合もほぼ等量の二種のフマラ-ゼが生成した。 4.ラットの遺伝子ライブラリ-から二種類のクロ-ンを得た。それらのクロ-ンを継ぎ合わせると約23kbにも及ぶが、それでも全てのエクソンを含んではいなかった。しかし、得られたクロ-ンには5′側が存在するので、現在その塩基配列の解析を進めている。 以上の結果は、フマラ-ゼにはただ一種のmRNAしかないが、翻訳開始点が二カ所存在するため、二つのイソ酵素が生成される可能性が高いことを示唆している。更に、Northern blot法、プライマ-伸展法やSIマッピング法を行ったが、この可能性と矛盾する結果は得られていない。但し、何故一つのmRNAから二種の蛋白質が読まれるのかという機構の詳細はよく判っておらず、今後の問題である。
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