糖尿病の病態と交感神経機能との関連、特に、高濃度グルコースとの長期間の接触によって生じるカテコールアミンの生合成および分泌機能の変化について検索するため、ウシ副腎髄質から単離したクロマフィン細胞の、高濃度グルコース存在下における長期培養について検討した。標準培養液中で10〜15日間の培養を行ったところ、雑菌の繁殖や細胞の剥離も認められず、細胞内カテコールアミン含量の減少が見られるものの、細胞の分泌刺激に対する反応性に有為な変化は認められなかった。次に、重症糖尿病の血糖値に相当する濃度のグルコース(15〜35mM)の存在下で長期間(3〜12日間)の培養を試みたところ、グルコース(25〜35mM)の存在下で培養した細胞が、標準培養液中で培養した細胞に比較して、その細胞内カテコールアミン含量において、有為に高い値を示した。従って、高濃度グルコース存在下の長期培養によって、カテコールアミン分泌機能の変化のみならず、その生合成や貯蔵、分解の過程に対する何等かの影響が現れている可能性も考えられる。このように、ウシ副腎髄質クロマフィン細胞の初代培養系が、糖尿病の病態における交感神経機能を検索するためのモデル系として用い得る可能性が示されたので、この系を用いて、カテコールアミン分泌ならびに生合成機能に対する高濃度グルコースの影響について、今後、更に詳細な検討を進める。一方、カテコールアミン分泌機能に対するスルフォニール尿素系糖尿病治療薬の作用について検討を加え、カテコールアミン分泌がこれらの薬物によって抑制されること、この抑制作用がカルシウムの細胞内への流入の阻害に基づくものであることを、既に報告している。更に、これらの薬物か、カテコールアミンの生合成に対しても抑制作用を示すことを見いだしており、現在、その阻害機構に関する検索を進めているところである。
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