糖尿病患者に多発する高血圧症やうっ血性心不全などの合併症の病因として交感神経機能および副腎髄質機能の異常が考えられ、これらの機能異常が、糖尿病の病態、特に長期間にわたる高血糖状態の持続に基づくものである可能性が考えられる。そこで、糖尿病状態における副腎髄質機能の異常、特にそのカテコ-ルアミン生合成能の異常に関する知見を得る目的で、ウシ副腎髄質クロマフィン細胞を高濃度グルコ-スの存在下で長期間培養し、細胞内カテコ-ルアミン含量の変動について検討を加えた。その結果、標準濃度のグルコ-ス存在下で培養した細胞に比して、高濃度グルコ-スの存在下で培養した細胞では、そのカテコ-ルアミン含量について有意に高い値が得られた。そして、この細胞内カテコ-ルアミン含量の相異は、高濃度グルコ-スの存在下で認められ、同じ濃度のサッカロ-スやラフィノ-スなどの糖類の存在下では認められなかった。従って、高濃度グルコ-スの存在下で長期間培養することにより、副腎髄質クロマフィン細胞のカテコ-ルアミン生合成機能に何等かの変調を来す可能性が示唆された。しかしながら、カテコ-ルアミンの細胞内含量に影響を与える因子として、カテコ-ルアミン生合成能のみならず、その分泌能や分解速度も重要なものであり、この点に関しても更に詳細な検討が必要であると考えられる。 一方、経口糖尿病治療薬として知られているスルフォニ-ル尿素剤が培養ウシ副腎髄質クロマフィン細胞からのカテコ-ルアミン分泌を抑制すること、この抑制作用が細胞内へのカルシウム・イオンの流入の阻害に基づくものであることを既に報告しているが、これらスルフォニ-ル尿素剤には、更に副腎髄質クロマフィン細胞におけるカテコ-ルアミン生合成に対する阻害作用が認められることを見いだした。
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