褐色脂肪組織(BAT)での熱産生は、エネルギ-出納を消費の側から自律的に調節するのに重要な役割を果たしており、その機能障害は肥満の成因の一つとなっている。前年度までの研究で、BAT機能が交感神経の直接支配の下にあり、更に視床下部腹内側核(VMH)が上位中枢として制御していることを明らかにしたので、今年度はラットを実験動物として用い、BAT機能の指標としてグルコ-ス利用速度(非代謝性グルコ-ス誘導体2-デオキシグルコ-スの細胞内とりこみ)を追跡することにより、以下の成績を得た。 (1)絶食させたラットでは、BATのグルコ-ス利用は著しい低値であるが、食物摂取に伴い約20倍増加した。しかし、BATを支配している交感神経を予め切除しておくと、約10倍の増加にとどまった。(2)同量の食物をチュ-ブで直接胃内に投与すると、グルコ-スの利用の増加は、交感神経の有無にかかわらずに、約10倍であった。(3)BATでの交感神経活性の指標であるノルエピネフリン代謝回転は、経口摂食の方が胃内投与に較べて約2倍であった。(4)これらの結果は、摂食に伴う交感神経-BAT機能の活性化には味覚などの口腔咽頭部感覚受容が重要であることを示している。この考えは、摂食量が同じであってもチュ-ブ摂食ラットの方が経口摂食ラットよりも肥満傾向が強いという観察からも支持され、エネルギ-消費の自律的調節における食物知覚因子の重要性を提示するものである。
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