正常絨毛及び腫瘍細胞におけるゴナドトロビン(hCG:α及びβサブユニットが非共有結合した糖タンパク質ホルモン)の生合成機構の相違を解明するために研究を行い以下の成果を得た。 1.正常胎盤絨毛細胞抽出液中に存在するhCGサブユニットをイムノバインディング法で分析した結果、尿性のものとは異なる分子種であることが分かった(細胞内型hCGサブユニット)。 2.細胞内型hCGサブユニットを精製し、その糖鎖構造を調べた結果、両サブユニット共に未成熟なN結合型糖鎖である高マンノ-ス糖鎖を有していた(未成熟型サブユニット)。さらに、未成熟型βサブユニットは、尿性サブユニットが持つO結合型糖鎖を有していなかった。 3.糖製した未成熟型サブユニットは、会合し未成熟型hCGを再構成し弱いながらも生物学的活性を示した。また、再構成した未成熟型hCGの一部は、凝集体を形成し高分子化した。細胞内における未成熟型hCGも高分子量を示したことから、hCGの高分子凝集体形成は、自身の細胞内輸送において何等かの役割を担っていると考えられた。 4.正常胎盤絨毛細胞から分泌後排泄された尿性hCGサブユニットについて詳細に調べた結果、鎖内ペプチド結合が1箇所のみで切断された異常な構造を有したβサブユニットを発見し、その性質を明らかにした。 5.絨毛癌由来細胞株であるBeWo細胞の産生するhCGサブユニットの蛋白化学的特徴について調べ正常絨毛細胞のものと比較した。BeWo細胞由来hCGサブユニットは、正常細胞のものと比べて分子量が異なっており、また各種グリコシダ-ゼに対する感受生も異なっていたことから、癌化によってhCGの分子形態が変化することが分かった。このことから、腫瘍細胞における糖鎖プロセシング酵素の特異性などが、癌化によって変化していることが推定された。
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