1)実験腫瘍の光顕的検索:ラット膝関節内DMBA注入によって、初期変化としては、滑膜lining cellの腫大・増生を認める。ヒトの炎症性疾患などで認められるlining cellの同様の変化と比較すると、核異型が若干みられる点が異なる。腫瘤形成時の組織像では、類円形、多角形もしくは紡錘形細胞の密な増生を認める。島状の配列を示す部分や、slit状の空隙を形成する部、嚢胞状の部分に立方状細胞が突起様配列を示し隆起する像などを認めるが、あきらかな管腔様構造の形成や細胞二相性という所見は認められない。 2)電顕的検索:実験腫瘍では、かなり未分化な間葉系細胞より成り、特徴的所見に乏しい。基底膜、デスモゾ-ムなどの上皮様分化は認められず、腺腔構造や明瞭な細胞二相性も認められない。細胞内小器官もさほど豊富ではなく、中間径フィラメントも少量である。 3)組織化学的検索:初期変化及び腫瘤形成時においても免疫組織化学的にケラチン、laminin、typeIVコラ-ゲンの局在は認められず、上皮様分化を示していない。ビメンチンは両群ともに陽性を示している。レクチン組織化学でもUEA-1は陰性である。また、デスミン、S-100蛋白、NSE陽性細胞も認められず、ヒト滑膜肉腫とは異なり、上皮様性格や多彩な細胞分化を示していないと結論づけられる。 4)ヒト滑膜肉腫との対比:ヒト滑膜肉腫は明らかな上皮性格を示しており、多彩な分化を併せ持つ癌肉腫として表現し得るものであるが、滑膜内実験腫瘍では、これらの性格を示している像を確実に把握することはできない。滑膜lining cellにこのような分化を示しうる潜在的能力を想定することは疑問であると言わざるを得ない。実験的腫瘍の中で嚢胞状の部を示すものがあり、ヒト滑膜肉腫との類似も考えさせられるが非特異的所見と考えるのが妥当である。
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