研究概要 |
我々は随鞘塩基性蛋白(MBP)に対する抗体と免疫学的に交又反応を示す物質が腫瘍細胞内に普遍的に存在することを免疫組織化学的に実証してきた。その腫瘍細胞内immunoredctive MBP substanceの生物学的意義は現時点不明であるが、我々は作業仮説の一つとして腫瘍増殖因子の可能性を考えた。そこで腫瘍組織から塩基性蛋白(TBP)を抽出し、その中にMBPあるいはそれに類する物質が存在するか否かを検討するのが本研究の目的であった。方法:剖検時あるいは手術時に得られた乳癌、肺癌、乳癌肝転移、大腸癌、膵癌、腎癌例を用いた。酸抽出にて得たTBPはSDS-ポリアクリルアミド電気泳動法にてその未知物質を分析し、ニトロセルロ-ス膜に転写し、その分画に抗MBP抗体と反応するものがあるか否かをイムノブロッティング法にて検索した。 成果:各々原発臓器や組織型の異なる腫瘍組織からのTBPにはMBP分子量に相当するバンド以外に分子量約65,000〜35,000前後の間に抗MBP抗体と免疫学的反応を示す、少なくとも4〜5個の分子量を異にする共通バンドが認められた。つまりTBPには本抗体と免疫学的交叉反応をするに必要なエピト-プを持つ、いわゆるMBP様あるいはポリマ-型のMBPと考えられる物質が数種類含まれていることが分かった。なお本研究に使用した抗MBP抗体の特異性はイムノブロッティング法にて確認しており、本抗体と反応する物質は少なくとも免疫学的反応に必要なエピト-プを有するMBP類縁物質であるといえる。 考察:腫瘍細胞内immunoredctive MBP substanceはTBP中のMBP様蛋白に相当すると考えられる。それらは分子量的にTGFと異なるが、腫瘍細胞に共通して認められるMBP様蛋白は未知な、新しい腫瘍増殖因子である可能性が高いと考えられる。
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