この2年間の研究によって次下の事項が明らかになった。 1.2月令マウスに甲状腺炎を誘導し、経時的ないし長期的に観察した結果、発症18月後でも甲状腺炎及び血中自己抗体(抗サイログロブリン・Tg)とも持続し、甲状腺には線維化が生じた。しかし、同じ甲状腺炎に羅患しやすいマウスでもマウスの系統によってこの持続性に違いがみとめられた。2.各月令のマウスに甲状腺炎を誘導し加令の影響を観察した結果、甲状腺炎・血中自己抗体ともに加令によって顕著な減弱傾向を示し、特に20月令の老令マウスでは甲状腺炎も血中自己抗体も殆ど発現しなかった。3.甲状腺炎を誘導した後、Tg感作Tリンパ球のTgに対するin vitro増殖反応を行った結果、老令マウスでは若令マウスに比較してリンパ球の増殖は低下を示し、老令マウスではT細胞機能の低下によって甲状腺炎の発現も生じていないことが判明した。4.in vitroで増殖させたTg感作リンパ球を老若マウスに注射したところいずれにも甲状腺炎移入が可能であったことから、甲状腺組織そのものには羅患性に違いの無いことが判明した。5.外来抗原として羊赤血球を投与して血中抗羊赤血球抗体を観察すると、抗体価は長期間持続したが、その程度はマウスの系統によって違いがあることが判明した。 以上より、甲状腺を攻撃するエフェクタ-T細胞が一度発現すると甲状腺炎は長期間持続し、ヒトの甲状腺炎と同様に甲状腺実質には線維化が生じる。また、加令とともにT細胞機能が低下することにより、甲状腺炎も生じ難くなることがわかり、ヒト慢性甲状腺炎と多くの共通の発症機序や病態が観察された。今後は甲状腺炎をおこすエフェクタ-T細胞のクロ-ニングによる解析、このクロ-ニングされたエフェクタ-T細胞移入による生体側の反応を検索する必要がある。
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