本研究では脳血管構築の特徴を流体力学および幾何学を基礎として定量的に調べ、大脳基底核に選択的に発生する病変(一酸化炭素中毒による淡蒼球病変、高血圧性脳出血)の発生メカニズムについて考察を行った。主な結論は以下のようにまとめられる。 1.血管分岐における圧力降下(エネルギ-損失)は分岐角・管径比が大きくかつ流速が大きい場合に大きくなることを指摘した。大脳基底核の穿通枝、特に淡蒼球を栄養する血管はこのような条件下にあると考えられる。 2.淡蒼球を栄養する血管は主幹より分岐した後長い走行を経て脳実質に入る。ここでの圧力降下はFaraeus効果を取り入れたHagen-Poiseuilleの式より12.4±4.2mmHgと見積られる。CO中毒時のように末消の血管が拡張した状態においてさらに低血圧などが負荷されると、大きな動脈や分岐入口での圧力降下が相対的に重要になってくる。このことは一酸化炭素中毒による淡蒼球の虚血性病変の発生に密度に関連していると考えられる。 3.被殻における血管構築では、中大脳動脈などの主幹からの分岐やそれに続く比較的大きな血管での圧力降下は淡蒼球の場合ほど重要でないことが示唆された(3.2±2.1mmHg)。つまり脳実質内での血圧降下が大きいことが分った。高血圧の長期負荷により被殻の小動脈にはストレスが強くかかることが推察される。このことは高血圧性脳出血がこの部位に好発することに関連があると考えられる。 4.脳血管の空間的分布はフラクタルになっており、その複雑さの程度がフラクタル次元で定量的に示された。生体のいろいろな構造はフラクタルになっており、形の複雑さを定量化できるという点でフラクタルの病理学への応用は広い。 以上のように、大脳基底核の選択的病変発生には血管構築の特性が重要な役割を果たすことが示唆された。
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