1.愛知県および静岡県産の野生動物における肺吸虫の寄生状況を調べ、タヌキ70頭、キツネ33頭、テン7頭、ハクビシン6頭、イタチ15頭の計121頭のうち、1頭のタヌキに虫卵を含む虫嚢を確認した。一方、三ケ日町周辺の山中で野生動物の糞を採集し検便を行なったところ、6検体中3検体より肺吸虫卵が検出された。従って、全体としては低率でも、地域によってはかなりの密度で感染動物が分布することが示唆された。 2.三ケ日町産の肺吸虫について、連続切片からのコンピュ-タによる立体再構築像および圧平標本での卵巣の形態、特に分岐の特徴を検討した。染色標本では、圧平の有無にかかわらず分岐の単純さから宮崎肺吸虫(Pm)とウェステルマン肺吸虫(Pw)を区別することができた。立体構築像ではPwはいずれも5〜6本の比較的単純な分岐が基部から分れるに対し、Pmでは多くの個体で基部が膨大し、そこから多数の細分岐が分れる傾向を示した。また、虫体の一部を切り取り、アビジン結合性タンパクの電気泳動像を検討したところ、形態学的特徴と一致した結果が得られ、体成分の面でもPmとPwの混在が確認された。 3.三ケ日町において等1中間宿主貝の採集を試みたが、Pmの宿主と考えられる貝は採集できなかった。しかし、Pwの宿主とされるカワニナは数回の調査で計188個体が採集された。肺吸虫の寄生は確認できなかったが、カワニナの存在が両種の混在にとって主要な要因になっていることが示唆された。 4.ラットへの感染実験では、虫嚢内から回収された虫体はいずれもPmであった。しかし、1頭のラットでは、回収された虫体は胸腔内に遊離しており、卵巣の形態からPwと同定された。このことはPwがラットでは成熟しないという従来の知見と一致しており、混在しても両種の終宿主特異性には一定の差があることが示された。
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