1.サワガニからメタセルカリアを採取する方法として、ペプシンによる消化法、ホモジナイザ-による粉砕法、ガラス板による圧平法を比較した結果、圧平法と粉砕法の併用が最も検出率が高いことが判明した。 2.野外からのサワガニの採集法として、石起こし法、枠法、トラップ法を比較した結果、感染率の推定や比較のためには枠法を用いるか、一定以上の大きさの個体について検討する必要があることが明らかとなった。 3.愛知県東部から静岡県西部における肺吸虫の分布を調査した。サワガニでは静岡県から愛知県新城市周辺まで低率ながら広く分布するが、新城市以北には分布していなかった。野生哺乳動物では感染率は極めて低かった。 4.静岡県引佐郡三ケ日町でウェステルマン肺吸虫(Pw)と宮崎肺吸虫(Pm)が同じサワガニ個体群内に混在することが判明した。Pwは卵巣の形態がPmに類似していたが、構成タンパクの解析から明確に鑑別された。Pmの第1中間宿主と思われる貝は発見できなかったが、Pwの宿主とされるカワニナが分布しており、2種の混在を可能にしている主要な要因が第1中間宿主の分布であることが示唆された。しかし、同じ生態学的地位を占める近緑種が同所的に分布することは、さらに追究すべき問題と考えられる。 5.実験的終宿主への感染では回収個体の約16%がPwであり、ラットではPwは主に胸腔内に遊離していた。また、2種が同じ虫嚢から回収されることはなく、混在していても種の独立性が保持されていた。 6.2種の卵巣の形態学的差異を明らかにするため、連続切片からのコンピュ-タによる立体再構築を行なった。Pwはいくつかの特有なパタ-ンが存在するが、原則的に6葉に分岐した構造が一貫して確認され、Pmでは分岐の構造は複雑多様で、両者の形態には根本的違いがあることが示唆された。
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