マンソン裂頭条虫擬充尾虫が産生する成長ホルモン(GH)様物貭の生理学的特性とその構造を追求するために充分量の精製標品を得る必要があり、精製法の改良を試みそして生理活性を観察した。従来は虫体抽出液の塩析、疎水及び陰イオン交換クロマトグラフィ、ゲル濾過の4段階で精製したが、改良の結果では虫体抽出液をGH受容体結合アフィニティクロマトグラフィ、ゲル濾過の2段階で精製され、特異的GH活性は195倍に上昇し、収率も良好であった。この精製されたGH様物貭の分子サイズは、以前に精製した27KDとは異なり、16KDであった。この新たに見出された16KD蛋白は肝細胞増殖活性を持ち、さらに抗ヒトGHモノクロナ-ル抗体と交叉反応する物貭であった。さらにこのGH様物貭はゴ-ルデンハムスタ-の血糖上昇を抑制することが示唆された。一方、アフィニティクロマトグラフィにてGH受容体に弱い結合をする物貭が認められ、これを陰イオン交換クロマトグラフィ、ゲル濾過にて精製すると、以前に精製した27KD糖蛋白であった。この27KD糖蛋白も16KD蛋白と同様に肝細胞増殖活性を示し、抗ヒトGHモノクロナ-ル抗体と交叉反応した。そして27KD糖蛋白をリジンエンドペプチダ-ゼにて切断し、エドマン分解法によりApplied Biosystem Protein Sequenatorを用いてアミノ酸配列を決定した。27KD糖蛋白断片の15個のアミノ酸配列はカテプシンLと67%の相同性を持っていたが、GHとの相同性は認められなかった。これらの結果から、GH受容体に強く結合し、抗ヒトGHモノクロナ-ル抗体と交叉反応する16KD蛋白が肝細胞増殖活性を持つことから本虫感染による肝細胞増殖を惹起させる本体であると考えられ、この物貭のcDNAのクロ-ニング、塩基配列の解明が今後の課題として浮上した。
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