Hymenolepis属条虫における片節形成の機構を細胞群の動態という側面から解明するために以下の研究を実施した。感染(発育開始)後の種々の齢の虫体について、デジタイザーを用いて各種の計測を行ない、片節形成速度の変遷と、個々の片節の成長速度を計算した。その結果、片節形成速度や形成直後の片節幅径は、虫体の齢によって大きく変化するが、形成直後の片節縦径は常に一定であることが判明した。この観察は、分裂可能な唯一の細胞型であり、すべての細胞の幹細胞であるgerminaーtive cellの分裂頻度に関する従来の知見等から考えて、条虫の片節形成が、細胞分裂頻度やその他のパラメータの影響を受けない、単純な細胞行動の結果として理解し得ることを示唆している。そこで、片節形成に伴って起こる細胞の分布状態その他の形態学的変化を調べた。片節形成以前の虫体頚部のnedullary parenchyna内には、germinative cellを含む多数の細胞が存在する。これらの細胞の多くが、虫体長軸に垂直な、各一層の細胞から成るシート状に配列するようになる。虫体の矢状断および水平断切片では、これらの細胞シートが、はじめは網目状に連絡し合っているが、やがてシート間の連絡が切れて、各シートが独立する。これとほぼ同時に、虫体を縦走する一対の腹側排出主管を横方向に結ぶ排出細管が形成される。シートを構成する細胞のすべてがgerminative cellであるかは不明である。しかし後者には少なくとも二型があり、また一部は排出管の管壁細胞に分化するようである。横断排出細管の形成は、片節が形成されつつあることを示す最初の徴候であり、これより少し遅れて虫体表面の横皺が、明瞭な規則性を示すようになる(外分節)。細胞シートの形成がgerminative cell自体の性質によるのか、それとも他の細胞との相互作用が関与しているのかを調べるために、細胞のin vitro培養を試みているが、十分に成功していない。
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