トリパノソーマは抗原型Oタイプのウェルカム株を用いた。雌マウスを免疫するためトリパノソーマをラットに移植し、血中感染がピークに達した時にクロロフォルム麻酔下で心臓よりヘパリンで湿した注射器によって感染血液を採取し遠心してトリパノソーマを得た。ラットの成分を取り除くためにDEAEーセルローズカラムクロマトグラフィを行ってトリパノソーマを純粋に得た。そしてドライアイス・アセトンによる凍結融解をくり返して死虫を得た。雌マウスは交尾後24時間以内に死虫とフロインド完全アジュバンドの混液を後足筋肉内に注射された。幼若マウスからの採血は頸動脈を切断することによってなされた。初乳は授乳を受けた幼若マウスの胃を採取しその内容物である乳塊を集めた。初乳からの母体由来抗体はリン酸緩衝液(pH7、5)で抽出した。トリパノソーマに対する幼若マウスの血清凝集素価はすべて母体由来抗体によるが、経胎盤性抗体はあまり多くはなかった。幼若マウス生後間もなくそれらの血清中に高い凝集素価が認められるので幼若マウスへもたらされる母体由来抗体の大部分は経乳汁性抗体であることが判った。授乳が始まると凝集素価は急激に上昇し、授乳後7〜10日では雌マウスの血清凝集素価を上廻るのが認められた。以後は次第に減少して生後8週令あたりで抗体価は認められなくなった。寒天内免疫拡散法により初乳に含まれるイムノグロブリンを分析すると主にIgG抗体とIgA抗体であった。免疫初乳の授乳後7日目(生後7日目)の幼若マウスを用いてトリパノソーマに対する感染防禦能を調べると防禦能は完全に備わり実験的トリパノソーマ感染に対して発症しなかった。生化学的手技により分離したIgG抗体によって出来るトリパノソーマの凝集塊は補体を添加すると凝集塊ほぐしの現象が認められた。この現象はこの場合には補体第一経路の活性化によりより迅速な凝集塊ほぐしが行なわれるのが認められた。
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