幼若マウスのトリパノソ-マ感染防禦にかかわる母体由来抗体は、経胎盤抗体と経乳汁抗体がある。幼若マウスの血中にみられる経胎盤抗体の主成分はIgG抗体である。同様に、経乳汁抗体の主成分もIgG抗体である。幼若マウスの血清抗体素価は、授乳後急速に上昇する。母体由来抗体を受けた幼若マウスは、トリパノソ-マの実験的感染に対して、抵抗性を示して感染防禦をする。従って、幼若マウスの感染防禦にかかわる抗体の主成分は経乳汁抗体のIgG抗体であることが判った。幼若マウスに移入されたIgG抗体がどの様にして感染防禦を達成するのかは興味ある問題である。トリパノソ-マはIgG抗体の存在のもとで、凝集反応をして凝集塊に補体が作用すると凝集塊はほぐれて、表面抗原に抗体と補体を結合している個々のトリパノソ-マになる。この補体によるdissociation(凝集塊のほぐれ)の現象は、感染しているトリパノソ-マを体内から駆除するのに極めて重要な意味をもつ。感染しているトリパノソ-マを駆除する為には、大食細胞による免疫食作用に頼らなくてはならない。dissociationは免疫食作用を促進する。dissociationには補体の活性化を必要とする。活性化経路は古典経路でも第二経路でもdissociationを完結出来る。トリパノソ-マの凝集塊が補体の存在下でのdissociationの機構は、免疫複合体を形成しているIgG抗体が機能的にunivalentになり、そのために凝集しているトリパノソ-マがfreeになる。抗体が機能的にunivalentになるので、トリパノソ-まの細胞表面の抗原の数と同数の抗体がトリパノソ-マに結合出来る。大食細胞にはFc受容体とC3b受容体があり、IgG抗体が機能的にunivalentになることでbivalent抗体の場合の2倍量の抗体と2倍量の活性化補体がトリパノソ-マ表面に結合し、大食細胞による免疫食現象を促進せしめることになる。
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