人体組織侵入性寄生虫であるマンソン裂頭条虫幼虫(プレロセルコイド)には高い蛋白分解酵素活性が認められる。この酵素活性の生理的機能と宿主に対する作用を検討するため以下の実験を行い若干の知見を得た。シマヘビより幼虫を採取、アセトン処理の後乾燥粉末とした。10mMTris-Hcl(pH8)で、0℃、12時間抽出後、超遠心上清について、1、(1)宿主高等動物筋構造蛋白に対する性質を調べると、ミオシン、アクチンを速やかに切断し得る蛋白分解酵素が存在した。(2)筋収縮調節系蛋白であるトロポニン・トロポミオシン(TN・TM)を加えたアクトミオシン系の試験管内収縮(超沈澱)に対する影響を調べると、これらの収縮系は速やかにそのCa^<2+>感受性を失い、電気泳動的にTN-Tサブユニット≧TN-Iサブユニット>TM>ミオシン>アクチン≧TN-Cサブユニットの順に切断を容易に受ける事が分かった。(3)ウサギより筋原線維を調製し、酵素との反応性を電子顕微鏡的に観察すると、筋弛緩条件下にフィラメント構造の崩壊像が認められた。2、人工基質αーN-benzoyl-arginine-βーnaphthylamide(BANA)に対する反応を調べると、(1)BANAは速やかに水解されβーnaphthylamineを遊離した。(2)最大活性は酸性pH領域(pH4ー5)に認められるが、中性付近にも活性が存在し、複数の酵素の存在が示唆される。(3)活性は、-SH修飾試薬(p-クロル安息香酸、PCMB)やロイペプチンによって阻害された。(4)PCMBで化学修飾され、失活した酵素は還元剤の添加によって速やかに活性を回復するのみならず、さらに活性化傾向を示した。3、1、及び2、で示された性質が、共通した酵素に起因するのか否か、及びこれら性質のより詳細な検討を行なうため、粗抽出物の分画、精製を行なった。酸性処理、アセトン分画、ゲルろ過法、イオン交換クロマトグラフィー等により、現在までに、SDS-電気泳動的に分子量約20Kの蛋白が少なくとも関与していると考えられる結果を得ている。
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