研究概要 |
人体組織侵入性寄生虫であるマンソン裂頭条中幼虫(プレロセルコイド)には、ミオシンやアクチンに代表される筋構造蛋白を加水分解し得る蛋白質分解酵素(プロテア-ゼ)活性が存在する。[I]この酵素活性について、基本的な性質を調べ次の知見を得た。1)酸性pH領域に最大活性を示す粗抽出酵素は、酸性条件下、30℃インキユベ-ションにより、分子量21,000の活性化されたプロテア-ゼ分子を単離した。2)この酵素には、活性中心、またはその近傍に、少なくとも、1モルの、活性発現に必須な-SH残基が存在した。3)単離、活性化された酵素は、弱酸性〜中性pH領域にその最大活性をシフトさせた。[II]プレロセルコイドプロテア-ゼの基本的な知見を基に、宿主であるウサギおよびニワトリより単離精製した未変性筋蛋白にこの酵素を反応させ、筋蛋白の生化学的変化を測定し以下の結果を得た。1)細胞骨格形成の主要蛋白であるアクチンについて、酵素の切断反応をSDS-電気泳動的に観察した。モノマ-状態のアクチン(G-アクチン)は速やかに切断を受けた。それに比べ、フィラメント状態のアクチン(F-アクチン)は、より緩慢な切断反応像を示した。2)構造蛋白であると同時に、ATPaseでもあるミオシンは、モノマ-状態およびフィラメント状態で、プロテア-ゼの作用を受けた。切断されたミオシン分子は、そのATPase活性発現に必須な部位(ヘビ-メロミオシンまたはサブフラグメント-1)の構造を保っていたが、しかしフィラメント形成部位(ライトメロミオシン)の消失により、フィラメント構成能力を失うと考えられた。
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