シャーガス病の病原虫体であるTrypanosoma cruzi(T.cruzi)の糖脂質について、その機能と免疫源性を明らかにする目的でこの研究は始められた。虫体をLiver-lnfusion-Tryptose mediumにて培養し、対数増殖期に集め、生理食塩水にて洗滌し、Hakomori&Murakamiの方法によって脂質の抽出を行なった。抽出された脂質より、シリカゲルを用いたColumn chromatographyを行ない、糖脂質を分離、精製した。T.curziには組織指向性の異なったstrainが存在し、そのために症状が異なることが知られている。そこで各strainで糖脂質の性状の違いを観察するため薄層クロマトグラフィーを用いてそれぞれの糖脂質を比較検討した。その結果、各strain間に大きな差は認められなかった。虫体より分離、精製された糖脂質を更に薄層クロマトグラフィーによって分画した。そしてその内の最も主要分画の脂肪酸組成をガスクロマトグラフィーによって観察すると、リノレイン酸(18:2)が主要構成脂肪酸(49.1%)であった。脂肪酸組成についてもstrain間の比較検討が次年度に行なわれる予定である。また、虫体の糖脂質がもつ免疫源性の違いを各strain間で比較検討するため、糖脂質を抗原として抗血清の作製が試みられている。現在までの結果から虫体のもつ糖脂質はT.cruziのstrain間では共通に認められることから診断用の抗原として有用性が考えられる。
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