研究概要 |
糖脂質が生物学的機能をもつことはよく知られた事実であり、免疫原としても重要な働きをもつとされている。シャ-ガス病の病原虫体であるTrypanosoma cruziにも糖脂質の存在が認められるが、その機能については明らかではない。この研究では虫体のもつ糖脂質の機能および特性を明らかにするため、免疫原性、株による特異性などについて検討を行なった。病原性の異なる種々の虫体株(Tulahuen,Y,Bereniceなど)をLiver-Infusion-Tryptose mediumにて培養する。そして各培養虫体よりHakomori& Murakamiの方法で全脂質を抽出する。抽出された全脂質をシリカゲルを用いたColumn chromatographyによって糖脂質分画を得た。これらを薄層クロマトグラフィ-上に展開し、株間における移動度およびパタ-ンなどを比較検討したが、株間の差は認められなかった。また、研究年度の前年に我々がELISA法を用いて感染宿主の血清中に糖脂質に対する抗体が形成されることを確かめている。当研究年度では、株間の比較検討を糖脂質を抗原としてELISA法によって観察した結果、株間では共通した反応が認められた。一方、Leishmanaから抽出された糖脂質に対するT.cruzi感染マウスの血清とは反応しなかった。すなわち糖脂質の他種虫体との交差反応は認められないと考えられる。更に、流行地域より集められた感染者血清と虫体糖脂質との反応性をELISA法を用いて観察した。蛍光抗体法によって高い抗体価を示す感染者では糖脂質に対して強い反応性が認められる傾向であった。一方、我々の教室で作成したモノクロ-ナル抗体のうち、T.cruziに特異的で、特にいずれの時期の虫体の膜に対しても反応するモノクロ-ナル抗体が、この糖脂質に対しても強く反応した。したがって糖脂質が虫体膜に存在し、T.cruzi特異的であることが示唆される。以上の結果はこの糖脂質を抗原として用いてシャ-ガス病診断への応用を示唆していると考えられた。
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