研究概要 |
前年度に引き続きトキソプラズマを ^<35>SーMethionin添加K^+ー緩衝液中で短時間の培養(5分間)を行ない、アイソト-プ標識した。このトキソプラズマを培養細胞に感染させ、宿主細胞への侵入にともない変化する(消費される)蛋白成分の解析を行なった。一方、トキソプラズマを感染細胞より遊出・回収する手段として感染細胞をCa^<2+>イオノホアで短時間の処理を行なった。この処理で原虫は宿主細胞を破壊して速やかに遊出するため(Endo et al.1984,Expl.Parasitol.)、効率的に原虫を回収することができる。回収された原虫と侵入前の原虫とのSDSーPAGE Fluorographyによる比較の結果、回収されたトキソプラズマでは約60KDのバンドが消失していた。その他にも数本の微弱なバンドの消失が認められた。これらのバンドは宿主細胞外での培養(chase labelling)では変化が見られなかったことからして、細胞への侵入に際してかあるいはその後に消費されたものと考えられる。また、他の報告者によって60KD蛋白が宿主細胞中のトキソプラズマを包む虫嚢(Parasitophorous vacuole)内側に認められており、今回の結果とあわせて考えると虫嚢形成に関与する分泌性の蛋白分子であることが推測される。 メチオニンの取り込みはトキソプラズマの細胞内pHの低下に伴い著しく阻害されることはすでに報告したが、pH低下に至るメカニズムについて示唆的なデ-タが得られた。すなわち、緩衝液中に排出される乳酸の量を核磁気共鳴(NMR)により測定すると、原虫はK^+ー緩衝液中(細胞内pHはアルカリ性に保たれている)ではNa^+ー緩衝液中(細胞内pHの著しい低下が認められる)にべておよそ2倍量の乳酸を排出していた。一方、ブドウ糖の消費量は両者間で差がなく、糖代謝経路に変化があるものとは思われなかった。これらのことから、外液のK^+は解糖により蓄積された最終産物の乳酸を細胞外へ排出する機構に関与しているものと思われた。
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