新しいセフエム剤使用から8年間経過した今日、これらの薬剤耐性菌が増えている。その耐性菌を広く集め調べた結果、腸内細菌4菌種およびブドウ糖非醗酵菌から計5種のセファロスポリナーゼ産生プラスミドを分離した。この内4株はセファロスポリナーゼにペニシリナーゼを兼ね備えたオキシイミノセファロスポリナーゼ型、1株は典型的セファロスポリナーゼであった。オキシイミノセファロスポリナーゼ産生プラスミドは、調べた腸内細菌(8菌種)に接合伝達可能な不和合性Mに属するプラスミドであり、全てβ-ラクタム剤耐性のみを担っていた。4菌種から分離されたこれらのプラスミド支配の酵素を精製し、家兎抗血清を作り、相互の性状を調べた所、同一の酵素学的性状を示した。残り1株A.calcoaceticus由来のセファロスポリナーゼ産生プラスミドの宿主或いは同一菌種間でのみ認められ、精製酵素・家兎抗血清による中和反応からプラスミド支配のセファロスポリナーゼは、染色体支配のセファロスポリナーゼと完全に一致した。以上述べた5株由来の酵素はその産生様式は構成型であった。この事実は、先に我々が報告した、誘導型酵素産生遺伝子はプラスミド化に伴なうその形質発現が弱いものの、構成型変異株の形質発現は、プラスミド化とそのコピー数を反映し、強力であること、β-ラクタム剤により誘導型から構成型変異株が容易に選択される事実を支持したものと考えられる。またβ-ラクタム剤の酵素誘導能の強弱と耐性菌の出現、染色体性遺伝子のプラスミド化に伴なう形質発現の強弱に対する薬剤と酵素の新たな作用を問題提起した。 現在分子生物学的立場からセファロスポリナーゼ産生プラスミドのDNAを解析し、この遺伝子がどの菌種の染色体DNA由来か決めるべき準備を続けている。
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