稲井らのC9欠損症が見出されて以来、最近までの研究で住民のほぼ0、1%がC9欠損であることが知られ、大多数の人はC9欠損にもかかわらず健康である。我々は、C9欠損血清が大腸菌をC9の関与なしに殺菌することを以下の実験結果に基づいて明らかにした。1.5%血清濃度でE、coli B/SM、I-1株を37%、60分処理した時、C9欠損血清による殺菌作用は同程度の正常ヒト血清に比べて極めて低かったが、この殺菌作用は抗C5抗体により完全に抑制されたが、抗C9抗体、抗ヒトリゾチーム抗体では効果がなかった。しかし、この抗C9抗体は、ヒト血清の殺菌作用を極めて顕著に抑制し、ほぼC9欠損血清と同程度の殺菌作用を示した。2.C9欠損血清中に、精製した補体成分C9を加えると、加えたC9量に応じて殺菌作用が向上する。C9欠損血清の濃度を一定にし、加えた菌数を変化しても、殺菌される菌の割分はほぼ同じであった。3.処理菌数を一定にしてC9欠損血清の濃度を増加させると、C9欠損血清の濃度に依存して殺菌作用が向上する。4.殺菌作用を時間を追って追求すると、正常血清中では殺菌作用は30-45分でプラトー値に達するが、C9欠損血清では90分後でも生存菌数は滅少し続ける。5.大腸菌NIHJ株はC9欠損血清の殺菌作用に対して特に感受性が高かった。以上の事から、C9欠損血清はある種のグラム陰性菌、特に大腸菌に対する殺菌作用をもつことを明確にしたが、そのメカニズムに関する研究はまだ不完全である。以前より感作血球は、補体成分のC1からC8までで溶血することが知られている。C9欠損血清を用いた菌の殺菌作用も血球と同様のメカニズムで殺すことができるかどうか、すなわち、菌を殺すのに最少どの程度のチャネルが形成されるのか、また、菌の死とチャネル形成は相関するかどうかを明確にする必要がある。
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