研究概要 |
1.腸炎ビブリオの耐熱性溶血毒遺伝子(tdh遺伝子)と神奈川現象。 (1)神奈川現象陽性株には2つの遺伝子コピーが存在し、コードン領域内では、両者の塩基配列は97.2%のホモロジーが認められた。実際に菌体外に産生された耐熱性溶血毒のアミノ酸配列との比較および、in vivo recombination法による遺伝子コピー失欠変異株と野生株との比較実験から、すでに報告した遺伝子コピーではなく、他の1つの遺伝子コピーが主として発現されていることが示された。これはプロモーター領域の塩基配列が異なることから、おそらく転写レベルでのコントロールであると推定された。 (2)神奈川現象陰性でありながらtdh遺伝子を有する菌株においては、神奈川現象陽性株のtdh遺伝子と類似する遺伝子(96%以上のホモロジーを有していた)が存在していた。コードン領域の塩基置換は、溶血活性にさほど影響を及ぼさず、むしろ遺伝子の発現に問題があるため神奈川現象陽性を呈さないと考えられた。また神奈川現象陰性株中に、tdh遺伝子と約70%のホロモジーを持つ一群の遺伝子(trh遺伝子)が存在し、塩基置換により派生したことも示した。 2.tdh遺伝子の可能性。 Vibrio cholerae,non-01,V.hollisae,およびV.mimicusの有するtdh類似遺伝子の塩基配列は、腸炎ビブリオのtdh遺伝子と酷似していることを明らかにした(93.1〜96.7%のホモロジー)。また、これらの遺伝子の上流および下流の塩基配列の解析から、tdh遺伝子はinsertion sequenceにはさまれたトランスポーゾン様構造をとり、プラスミドを介して菌種間を移動したと考えられる証拠を得た。
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