大腸癌患者(24〜54才)から摘出した回腸あるいは空腸の小片(ホルマリン処理、未処理)を用いて、腸管病原細菌(コレラ菌、NAGビブリオ、腸炎ビブリオ、毒素原性大腸菌)の粘着部位を探索し、各々の粘着能力(その特性)を比較解析した。 粘着標的は、コレラ菌とNAGビブリオの場合、(1)粘液層、(2)パイエル板上皮細胞(特にM細胞)、(3)回腸、空腸の絨毛上皮(吸収)細胞の順であった。腸炎ビブリオの場合には、粘着標的はまず(1)パイエル板上皮細胞(特にM細胞)で、(2)絨毛上皮細胞や粘液層への粘着は低い水準であった。毒素原性大腸菌(CFA/I線毛産生菌、CFA/II線毛産生菌)の場合、(1)パイエル板上皮細胞を最も効率よい粘着標的とし、次に(2)絨毛表面を粘着標的とした。粘液層への粘着は低い水準であった。 いずれの菌の場合も、線毛形成は37℃20時間培養の方が37℃3時間培養より著明であった。これに対し、粘着能力と運動能力は、37℃20時間培養時より37℃3時間培養時の方が顕著であった。 M細胞は、腸管感染防御機能の要であるパイエル板(リンパ小節)の上皮に存在し、腸管腔側の抗原(病原細菌)を摂取し、下方に位置するマクロファージあるいはリンパ球に抗原伝達する機能を担っている(Owenら)。今回の実験で、腸管病原細菌のヒトM細胞への粘着系を確立することができた。今後、M細胞粘着機構を明らかにし、効率良い経口コレラワクチン開発研究に成績を応用していきたい。
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