研究概要 |
D群赤痢菌の細胞侵入性に関与する遺伝因子を、大腸菌K-12株にコスミッドクローニング法を用いてクローンした。その結果、大腸菌に細胞侵入性を賦与するためには、37Kbの領域と、そこから離れたところに存在するもう1つの領域-この2つの領域が必要であった。37Kbの領域をもつ大腸菌は、赤痢回復期サル血清と反応する57、43、37KDaの抗原性タンパク質を発現していた。このことは、サル血清を用いたウエスターンブロッティング法と、whole cell ELISA法によって確かめた。 37Kbの領域をTn3-lacトランスポーソンを用いて変異をおこさせた。約100の変異株について、細胞侵入性と抗原性タンパク質の有無を調べた。その結果、37Kbのうちの約12Kbの領域にトランスポーソンが挿入すると、抗原性タンパク質のいずれかがなくなっており、なくなった菌は細胞侵入性も欠失していた。各57、43、37KDaのタンパク質をコードしている遺伝子領域をトランスポーソンの挿入位置との関係から明らかにして、その遺伝子をinvB,C,Dと名づけた。invB,C,Dの転写の方向はB,C,Dの方向になっており、以下の実験から、ひとつのオペロンをつくっていると考えられた。すなわちinvBにTn3-lacが挿入すると下流のinvC,Dの発現がみられなくなること、又invCにTn3-lacが挿入するとinvBの発現がみられるがinvDがなくなることよりそう考えられた。これらのことから、抗原性タンパク質をコードしているinvB,C,D遺伝子は、細胞侵入性遺伝子群の中に存在し、細胞侵入性に何らかの役割をはたしていると考えられた。どんな役割があるのかは今後の課題である。
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