XC細胞から得られた形態の異なる二つの細胞株だ、即ち紡錘型の細胞(L型)と多角型ないし円型の細胞(R型)について、ラウス肉腫ウィルス(RSV)のプロウィルスの状態と細胞内シグナル伝達経路の差異を中心に研究を進めた。RSVのプロウィルスに関しては、サザンブロッティング法によりRSVの組み込まれている部位が同一なことから、L型とR型の細胞が一個の細胞に由来することがまず確認された。又、L型とR型の細胞においてプロウィルス内部の構造に差は認められなかった。ノーザンブロッティング法によりRSVの転写レベルを比較したところL型がR型に比し数倍多くRSVのmRNAを発現していた。メチル化に感受性の制限酵素を用いて解析したところ、R型の方がL型よりRSVプロウィルスLTRのメチル化の程度が著しく、プロモーターのメチル化の差異がRSVの転写レベルの差異の原因であることが示唆された。RSVのv-src遺伝子産物であるpp60^<src>の量を免疫沈降法により比較したところ、L型の方がR型より約3倍多かった。ところが、免疫沈降物について試験管内反応によりpp60^<src>のリン酸化活性を比較したところ、L型とR型ではほとんど差がなかった。pp60^<src>がL型、R型の形態を決定する因子であるのか、否かはさらに検討を要する。L型とR型におけるアデニレートシクラーゼ活性の差異に関して、まずFITC標識されたコレラトキシンを用いて結合を調べたが、L型とR型において差を認めなかった。コレラトキシンによりADP-リボシル化されるGTP結合蛋白のαsサブユニットは、L型においてR型より10〜20倍増加していた。L型はコレラトキシンに抵抗性であり、R型はコレラトキシンに感受性で細胞内cAMPを著しく上昇させることから今後、L型のGTP結合蛋白の活性を調べるとともに、アデニレートシクラーゼの触媒部位をL型とR型で比較検討する必要がある。
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