インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ(NA)は糖蛋白の糖鎖末端部にあるNーアセチルノイラミン酸を解離する酵素である。NAは宿主細胞粗面小胞体で合成され、糖付加等のプロセシングを受けながらゴルジ体を経て細胞膜へ輸送され、酵素活性を獲得してウイルス粒子にとりこまれる。我々が分離したB型ウイルスの温度感受性変異株(ts)のなかに、NA遺伝子に変異をもつ株が含まれ、非許容温度下(37.5℃)ではNAは酵素活性を欠き、細胞膜へ輸送されないことがわかった。本研究はこのNAの細胞膜への輸送ブロックの機構を検討した。 1 ts感染MDCK細胞は許容温度下(32℃)では、野生株ウイルス感染細胞と同程度ウイルスを産生するが、非許容温度下ではNA活性もなく、ウイルスの産生もない。 2 蛍光抗体法による観察から、ts感染細胞で合成されるNAの細胞内輸送パターンは、許容温度条件下では野生株ウイルス感染細胞の場合と同様で、粗面小胞体からゴルジ体を経て細胞膜へ移行した。非許容温度条件下では、ゴルジ体から細胞膜への輸送がブロックされ、このNAは許容温度にすると細胞膜へ移行した。 3 ポリアクリルアミドゲルの電気泳動により、ts感染細胞のNA量は、非許容温度下では減少していること、非還元条件下の泳動パターンから4量体を形成できないこと、野生株ウイルスNAと同一移動度であることから、糖付加の障害がないことがわかった。 以上、非許容温度下でのts変異株NAの細胞への輸送ブロックは4量体形成不能と密接に相関した。遺伝子組換え技術により、NA遺伝子の変異を明らかにすることが、次の研究課題と思われる。
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