我々はインフルエンザウイルスA/WSN/33(HINI)株において、抗原性を主に担う糖蛋白質である血球凝集素(HA)の膜移行機能に関する温度感受性(ts)変異株を用いてHA分子上の変異部位を同定し、更にts変異が同分子上の他部位の変異により抑制されることを明らかにした(Vivology、1986)。本研究の目的は、HA遺伝子の発現と野生型への復帰をHA分子の三次構造上の変化として捉えるために、HA遺伝子のts変異株でみられた変異を組み換えDNAに挿入し、その生物学的性状を動物細胞での発現系で再現させ、in ritroにおけるts変異のモデル系を確立すること、及びHA遺伝子の相補DNA(CDNA)にin ritroで変異を起こさせ、発現系でts性が抑制されるかどうかをみることにより、HA分子上のts性の抑制に関する機能部位を調べることにある。今年度に行った研究により得られた知見、成果は 1.WSN株のHA遺伝子のCDNAを含む組み換えDNA(SV40DNA、プラスミドpUC9DNA、インフルエンザHACDNAを含む)、PSVHAWSNを作製した。 2.WSN株のHA遺伝子の温度感受性変異株ts134のHACDNAを作製し、pSVHAWSNDNAに制限酵素による切断片交換によりts変異部位を挿入した(pSVHA134)。 3.ts134のHACDNAをバクテリオファージM13mp18に組み込み、亜硫酸ナトリウムを用いたSite-directed mutagenesis法により変異を挿入した。 4.pSVHAWSN及びpSVHAts134からインフルエンザHACDNAを含むSV40組み換えウイルスを切り出し、動物細胞内でのHAの発現の有無を血球凝集反応、蛍光抗体法、細胞融合法等の手法を用いて検討中である。
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