この研究は、B細胞抗原レセプタ-としての細胞2量体IgM(mIgM)が、抗原受容に際して、分泌型の多量体IgMと同様に、補体を活性化する可能性、及びその結果おこる細胞膜へのC3b沈着が細胞応答の誘導、又は制御に何らかの役割を果たす可能性を調べることを目的としておこなわれた。 マウス脾B細胞は、in virroに取り出した時点で、血清中の補体を活性化し、相当量のC3を細胞膜上沈着することが認められた。また、末梢リンパ球や、種々の培養細胞においても同様の現象がみられた。この自発的補体活性化は、C1活性化阻害剤及びトロンビン活性化阻害剤で阻止されず、血清中の補体制堂因子の不足が原因とも考えられなかった。そこで、種々の条件を検討したところ、(1)マウス末梢血リンパ球を赤血球とともに培養する。(2)高比重細胞(静止期リンパ球)を用いることで、ほぼ自発的補体活性化を阻止できることが分かった。こうして得た細胞に種々の抗免疫グロブリン抗体及びマウス新鮮血清を反応させて補体閣性化を調べてみると、(1)抗μ抗体F(ab')_2、抗κ抗体F(ab')_2を反応させることにより約10%の細胞に特異的なC_3沈着がおこること、(2)しかし、抗μ抗体F(ab')_2による細体活性化の誘導は、Mg-EGTAにより60%以上阻害されることが明らかとなり、mIgの架橋による補体活性化に補体古典経路ないし類似の機構が関与していることが示唆された。 この補体活性化が、架橋された膜IgM分子そのものによるのか、膜IgMの架橋によって生じたB細胞変化に伴う二次効果によるのか、の疑問の解明は残された課題であるのか、膜IgMと膜IgDに上述の様な機能分離があることは、その生物学的意義を考えると極めて興味深い。
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