研究概要 |
癌組織のみならず正常組織においても遺伝子,染色体レベルの変化は老化過程においても生じ老化による第一義的な変化と考えられている。このような変化により癌組織が細胞不死化という細胞形質を獲得するように正常組織も新たな細胞遺伝形質を獲得する可能性がある。ライオンの説によれば2本の染色体のうち1本が胎生初期以降に不活性化される。もし適切なマカ-突然変異を不活性化染色体にもつマウスを作ることが出来れば,経特的に追跡することにより不活性化染色体の再活性化,即ち新たな細胞形質の獲得を直接的な方法で観察出来る。この外,レトロウイルスは,ゲノムにそう入されることにより,DNAの解析によっても細胞ゲノムの突然変異は検出される。本研究は老化過程における新たな細胞形質の獲得を発癌組織・正常組織を対比させながら検討しようとしたものである。 平成2年度は最終年度に当り,24ケ月群を屠殺し,肝,腎,脳,心,肺,脾,白血球,消化管,筋,腫瘍組織のPGKタイプを同定した。PGKアロザイムの定量下限は2%と判明した。即ち2%以上アロザイム型を異にする細胞が存在すれば検出可能である。この方法を用い,上記組織を分析した所,すべての臓器でPGKのアロザイム1種しか検出されず,老化過程でX染色体の不活性化は生じないものと考えられた。また種々の腫瘍を検討したがPGKアロザイムタイプは1種した検出されなかった。 この一方,レトロウイルスを用いた検討によれば,乳癌組織では,種々の乳癌ウイルスのそう入があり新たな細胞形質の獲得があった。 以上より,X染色体分不活性化は高度に安定であり,このため不活性化による形質の転換はないが,レトロウイルスの様なMobile Elementによって生じることが証明された。
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