研究概要 |
農薬の製剤についての安全試験は十分に行われているが、散布後に生成される分解生成物や残存の農薬原体などの複合毒性についてはほとんど知られていない。そこで我々はそのような混合物の対生物影響を知る目的で以下の実験を行い、興味ある結果を得た。 試験薬剤としては広島県下で最も多く使用されている除草剤の一つであるジフェニルエ-テル系のクロルニトロフェン乳剤(CNP乳剤:市販品)を用いた。 (1)マウス胎児に対する影響:CNP乳剤の約90%が分解するまで太陽光に暴露して得られた分解液及びCNP乳剤未分解液の0.05ml/10g Body Weightを妊娠マウスに妊娠第6日から第15日まで1日1回背皮下に投与した。1回のCNP投与量は1g/kgBWであった。妊娠第18日に開腹して着床数、胎児の数及び体重、外部及び骨格の形態を観察した。また自然出産した産児の体重を5週間にわたって観察した。得られた結果は以下の通りである。未分解液及び分解液区の平均胎児体重は対照に比較して有意に小さかった。分解液区では骨格異常の発生率が対照に比較して高かった。また産児の成長は分解液区及び未分解液区ともに対照区に比較して遅いことが認められた。 (2)メダカに対する影響:CNP乳剤の未分解液、それに含有されるCNPの約50%が分解するまで太陽光に暴露して得られた分解液、あるいはCNP標準品液を桑実期のメダカ卵に5日間暴露し、孵化仔魚の数及び形態を観察した。更に成魚に対してそれらの試験液を24あるいは48時間暴露して、その生残数を観察した。また各々の試験液中のCNP濃度を暴露後3,6,12および24時間に定量し、その変化も併せて観察した。得られた結果は以下の通りである。8ppmのCNPを含有する未分解液区、分解液区及び標準品液区ではメダカ卵の孵化率が対照区に比較して有意に低かった。異常孵化仔魚の発生率は8ppmのCNPを含有する未分解液区では顕著に高かった。また成魚に対する急性毒性は未分解液区で最も高かった。分解液区では試験液に残存するCNP濃度が急速に低下するためそれの毒性が正しく評価できなかった。 以上の結果から、安全性が高いと言われて多用されているCNP乳剤の対メダカ毒性には無視できないものがあり、更にその分解液の対マウス胎児毒性にも無視できない毒性があることが指摘された。
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