最近の研究により、老化は細胞分化の厳密さが徐々に失われていく結果であり、この不適切な遺伝子発現をみる上で極く低濃度の酸素ラジカルが深く関与していることが明らかになっている。老化促進マウス(SAM-P1)は対照マウス(SAM-R1)に比較して早老で寿命も短く、老化過程の研究のモデルとして用いられているが、その老化過程に酸素モデルマウスがどのように関与しているかはまだ十分明らかになっていない。老化促進モデルマウスSAM-P1と対照マウスSAM-R1を用い低濃度重金属暴露が老化過程に於ける脂質過酸化にどのように影響するかを検討した。生後3カ月、6カ月、12カ月の雄性SAM-P1とSAM-R1を用い、NiCI_2およびCoCI_2(Ni:Co;2.0ug/kg)を毎日7日間腹腔内に投与したのち、能組織内の脂質過酸化の指標としてthiobarbituric acid(TBA)反応物質を大川らの方法で測定した。TBA反応物質は無処置の場合でも両系ともに月齢にともない増加を示し、特に大脳と小脳において12カ月齢のSAM-P1はSAM-R1に比べて高値を示した。NiおよびCoを投与した場合TBA反応物質の増加傾向がSAM-P1において認められた。この増加傾向はCoにおいては小脳と脳幹部にNiにおいては大脳、小脳、脳幹部にみとめられた。SAM-P1系において認められる脂質過酸化の亢進がCo、Niなどの金属暴露によって更に高められることが明らかになった。脳には種々の脂質成分が存在するが、現在どのような脂質成分の過酸化が亢進しているのか、またこの脂質過酸化の亢進を抑制する生体因子としてメタロチオネインが有効であるか否かの検討を進めている。
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