本年度の研究結果は以下の2項目目に要約される。 1.集団健診による脳卒中発症予防の費用効用分析 コミュニティケアの一環として実施されている健診では、主に軽症高血圧症に対して保健指導あるいは受療の指示がなされている。人口約3万5千人の富山県のO市におけるこの健診の受診群と非受診群の1人あたりの年間の総医療費には、40〜59歳の女性で受診群のそれが非受診群に比較して少なかった以外に差異はみられなかったが、追跡調査からみた脳卒中発生率では、70歳以上で非受診群が受診群に比較して有意に高率であった(オッズ比約2.0)。しかしながら、脳卒中の最大の危険因子である高血圧を有する者が比受診群に約2倍多いことを考慮すると、健診によるこの効用は特記される程の大きさでないこととなった。 2.健康増進の面からみたライフスタイルの血圧に対する効用 高血圧予防のためのコミュニティケアとして、減塩はわが国でひろく受け入れられ、健診受診者あるいは高血圧者でもそれがよく実行されていることは本研究においても確認された。一方、運動は減塩ほど高血圧のコミュニティケアとして受け入れられてはいないが、健康増進のためにもひろく推奨されている。そこで高血圧対策としての運動の効用についてふり返り調査により検討をおこなった。健常な成人を対象として、中学や高校時代の運動習慣、そして現在の運動実施状況を調査し、現時点の血圧との関連を肥満や飲酒など血圧影響因子を加えた多変量解析法により検討した。その結果、男女で多少の差異はみられたが、現在の運動実施状況は勿論、これと独立して中学や高校時代の運動習慣も成人期の血圧に影響していた。すなわち運動が長期にわたり血圧によい影響を与えることが確認された。 以上、軽症高血圧に対しては健診で発見し対処するハイリスク対策より、運動習慣の普及のように集団全体に働きかけることの重要性を支持する結果であった。
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