腫瘍好発と免疫異常の関連をダウン症をモデルとして解明する為、本症患者の血液中の腫瘍マーカーを測定し、同時に免疫機能についても検討を加えた。対象は4〜44才の施設入所ダウン症患者36名及び、性・年令をマッチさせた非ダウンコントロール(同数)である。測定した腫瘍マーカーは、<1>α-fetoprotein(AFP)、<2>carcinoembyonicantigen(CEA)、<3>immunosuppressive acidic protein(IAP)、<4>α1-acid glycoprotein(α1-AGP)、<5>β2-microglabulin(β2-MG)、<6>ferritin(FER)の6種であり、RPHA法、ELISA法、SRID法により測定した。その結果、IAP濃度はダウン症群はコントロール群に比して有意に高く(P<0.01)、又α1-AGPもダウン症群に有意に高かった(P<0.05)。他の4腫瘍マーカーについては、両群間で特に差異を認めなかった。なお、IAPとβ2-MGは、ダウン症群においては、年令と有意な逆相関を示した。更に、腫瘍マーカー濃度を用いてダウン・非ダウンを判別外的基準として判別関数式を組み立て、正判別率84.4%を得た。次に、本症の免疫異常のメカニズムを解明する為、血清中の、麻疹、風疹、ムンプスに対する特異抗体をHI試験を中心として調べた所、風疹の抗体保有状況は、非ダウン群と特に差異を認めないが、麻疹とムンプスの抗体保有状況は、ダウン群に有意に低いという結果を得た。これより、ダウン症における抗体産生異常には、抗原特異性がある事が示唆された。更にこのメカニズムを検討する為、cell-sorter(細胞解析装置)により、ダウン患者のリンパ球表在抗原を調べた所、T8はコントロール群と差異がないが、T4が低く、従来の結果と同様の結果を得た。現在、多様な生物活性をもつ百日咳毒素を用いて、ダウン症由来リンパ球のin vitroにおける対抗原反応性を調べており、予備成績として、本毒素によりimmunomodulateされにくいケースとされやすいケースがある事が示唆されており、更に検討を加えている。
|